ホーム / ゾウゾクノート / ローン・抵当権つき不動産の家族信託
ローン・抵当権つき不動産は家族信託できる?銀行の承諾・債務の扱い・アパート信託の注意点
賃貸アパートのオーナーにとって、認知症による資産凍結は自宅以上に深刻です。大規模修繕の発注、入居者との契約更新、家賃の管理――判断能力を失えばすべてが止まり、収益物件が「収益を生まない凍結物件」に変わります。だからこそ家族信託の必要性は高いのですが、多くの物件にはローンと抵当権が付いています。
結論からお伝えします。①抵当権が付いたままでも、法律上は不動産を信託できます。②しかし借入先の銀行に無断で信託すると、契約違反として一括返済(期限の利益喪失)を求められるリスクがあります。③したがって実務の第一歩は、必ず借入先銀行への事前相談です。④加えて、ローン債務そのものは信託できないため債務の扱いの設計が必要で、⑤信託した不動産の赤字は損益通算できないという税務の制限も待っています。
ハードルは3つ。ひとつずつ攻略法を解説します。
3つのハードルの全体像
ハードル① 銀行の承諾――無断の信託は絶対にしない
ローン契約(金銭消費貸借契約)には通常、担保物件の譲渡・権利変動には銀行の承諾が必要という条項があります。信託による所有権移転(形式上、名義は受託者へ移ります)はこれに該当し、無断で行うと期限の利益喪失=残債の一括請求の根拠になり得ます。登記簿を見れば信託は銀行に必ず分かります。隠して進める選択肢は存在しません。
- 進め方:借入先の担当者に「認知症対策として家族信託を検討している。承諾の可否と条件を知りたい」と率直に相談する
- 銀行の対応は3パターン:承諾する(近年増加)/条件付き承諾(債務引受・追加書類等)/対応不可。対応不可なら借り換え(信託対応行へ)や完済後に信託が代替案になります
- 信託口口座の開設可否と併せて確認すると、二度手間がありません
ハードル② 債務の扱い――ローンは「信託できない」
信託できるのはプラスの財産だけで、ローン債務は信託財産に入れられません。そのため「不動産は受託者名義、ローンは委託者(親)名義」というねじれが生じます。実務の整理は主に2つです。
- そのまま方式:債務は親に残し、受託者が信託財産(家賃収入)から返済を続ける。銀行の承諾内容に沿って、返済口座の扱いを取り決めます
- 債務引受方式:受託者が債務を引き受ける(免責的/重畳的債務引受)。銀行との三者契約が必要で、相続税の債務控除に影響し得るため税理士の確認が必須です
どちらにするかは銀行の方針と税務の両面で決まります。銀行・税理士・司法書士の三者を巻き込む案件だと最初から想定してください。
ハードル③ 税務の制限――損益通算・繰越しができない
見落とすと実害が出る最重要ポイントです。信託した不動産から生じた損失(赤字)は、税務上なかったものとみなされ、①信託外の所得(給与・他の物件の黒字等)と損益通算できず、②翌年への繰越しもできません(租税特別措置法41条の4の2)。
- 大規模修繕で赤字が出る年のあるオーナーは、どの物件を信託に入れるかで納税額が変わります。修繕計画と収支見込みを踏まえ、赤字が出やすい物件を信託から外す・複数契約に分ける等の設計を税理士と行ってください
- 信託後は毎年の実務も増えます:家賃収入があれば信託の計算書(毎年1月31日)の提出、受益者(親)の確定申告への信託明細の添付
誤解の先回り:信託しても固定資産税・所得税・相続税の負担は基本的に変わりません(納税義務は実質的に受益者=親のまま)。信託は節税策ではなく、「経営判断を止めないための」対策です。
アパート信託の追加チェックリスト
- □ 敷金返還債務の引き継ぎ:入居者から預かった敷金は、信託設計上の取り扱い(相当額の金銭も併せて信託する等)を決めておく
- □ 火災保険・地震保険の契約者・被保険者の変更手続き
- □ 管理会社への通知と管理委託契約の名義変更
- □ 家賃振込先の変更案内(入居者へ)と信託口口座への一本化
- □ 新規の入居者募集・契約は受託者名義で行う体制づくり
- □ 将来の大規模修繕資金として、金銭も十分に信託しておく(不動産だけ信託して現金がない「資金切れ信託」は典型的な設計ミスです)
家族会議から、無料でつくる
収益物件の信託は専門家関与を前提としつつ、家族会議と要望の整理は無料ツールで先に進められます。家族信託契約書ツールでたたき台を作り、銀行・専門家との協議に持ち込んでください。
よくある質問(FAQ)
銀行に相談したら断られました。もう無理ですか?
選択肢は残っています。①信託対応に積極的な金融機関への借り換え(金利条件ごと見直す好機にもなります)、②残債が少なければ繰上げ完済後に信託、③当面は無借金の物件と金銭だけ先に信託し、当該物件は任意後見でカバーする段階方式です。
抵当権は信託登記でどうなりますか?
抵当権は信託後もそのまま存続します(消えません)。所有権移転及び信託の登記をしても、抵当権の負担つきのまま受託者へ移る形です。
建築中・これからアパートローンを組む場合は?
融資の段階から信託前提で組む「信託内借入」という手法があり、受託者が借入れる設計も可能です。対応できる金融機関・専門家が限られる高度な分野なので、計画段階から実績のある専門家を入れてください。
費用はどのくらい見ておくべきですか?
通常の信託費用に加え、銀行協議・債務引受・税務設計の分だけ専門家報酬が上振れします。収益物件を含む信託はフルサポート依頼を前提に、総額で物件価値の1〜2%程度を目安に複数見積もりを取ってください。
まとめ
- 抵当権つきでも信託は可能。ただし銀行の事前承諾が生命線。無断は一括返済リスク
- ローン債務は信託できない。「そのまま」か「債務引受」かを銀行・税理士と設計
- 信託不動産の赤字は損益通算・繰越不可。どの物件を入れるかで税額が変わる
- 敷金・保険・管理契約・修繕資金まで引き継いで、初めて「経営が止まらない信託」になる
あわせて読みたい
この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。