親が個人から借りていた・貸していたお金の相続|借用書がないとき
親の通帳に弟への300万円の振込がある。知人から「お父さんに200万円貸していた」と言われた——個人間の貸し借りは借用書がないことが多く、最ももめやすい財産の一つです。
相続での扱い、借用書がないときの証拠、借主や貸主が相続人自身のときの処理、時効と税金を整理します。相続人による使い込みが疑われるケースは「相続の使途不明金」をどうぞ。
①親が貸していたお金(貸付金)は相続財産。額面で評価するが、借主が返済不能なら減額できる ②親が借りていたお金は相続債務。債務控除には証拠が要る ③借用書がなくても、振込・返済の記録、メモ、当事者のやり取りで証明できる。証拠がなければ貸付か贈与かが争いに ④借主が相続人の一人なら混同で消滅し、特別受益に準じて相続分から差し引く。相続人が「親に貸していた」と主張するなら証拠を求める。時効は原則5年
貸していたお金は相続財産、借りていたお金は相続債務
親が貸していたお金は「貸付金」という相続財産で、相続人が引き継いで請求できます。実務では遺産分割協議で誰が引き継ぐかを決め、その人が借主に請求します。
逆に、親が個人から借りていたお金は相続債務で、相続人が法定相続分で引き継ぎます。貸主から請求が来たら、借用書や振込記録で借入の事実と残額を確認したうえで対応します。証拠なしに「貸していた」と言われても、直ちに払う必要はありません。証拠の提示を求め、確認できた分だけを法定相続分で負担するのが原則です(「親の借金は相続される?」)。
借用書がないときの証拠——贈与との線引き
| 証拠 | 使い方 |
|---|---|
| 借用書・金銭消費貸借契約書 | 最も確実。金額・日付・返済条件・署名を確認 |
| 通帳の振込・入金記録 | 貸した日の振込、その後の返済の入金があれば貸借の推定材料。「貸付」「返済」と摘要にあれば強い |
| メモ・手帳・手紙・メッセージ | 「○○に300万貸した」「返済は月5万」などの記載。日付と金額が具体的なほど有効 |
| 当事者の証言 | 借主本人が認めれば争いにならない。第三者の証言は補強程度 |
証拠がないと、「貸した」のか「あげた(贈与)」のかが争いになります。返済の記録が一度もなければ贈与と見られる可能性が高まり、贈与なら特別受益や贈与税の問題に変わります。生前なら借用書を作り、返済は振込で行うことが唯一の対策です(「贈与契約書のひな形と書き方」)。
借主・貸主が相続人自身のとき——混同と特別受益
借主が相続人の一人(親が長男に貸していた)の場合、長男は「親の貸付金を相続する相続人」であり「借主」でもあります。長男が相続する貸付金の持分は、自分に対する債権なので混同により消滅し、他の相続人が相続した持分は長男が返済する義務を負います。実務では、貸付金を「長男が受けた利益」として特別受益に準じて扱い、長男の相続分から差し引く形で協議することが多いです(「特別受益とは」)。
貸主が相続人の一人(次男が「親に500万円貸していた」と主張)の場合、次男は相続人であると同時に債権者です。主張が認められれば、遺産から500万円が次男に返済され、残りを分割します。他の相続人としては、振込記録や借用書の提示を求め、証拠がなければ認めないのが原則です。認める場合も、遺産分割協議書に「次男の貸付金○円を遺産から返済したうえで分割する」と明記します。
時効と税金——回収不能の評価・債務控除・贈与認定
時効——2020年4月以降の貸付は返済期限から5年、それ以前は原則10年。借主が時効を主張しなければ請求でき、一部返済があれば更新されます。
相続税——貸付金は原則として額面で評価しますが、借主が破産・行方不明・長期延滞など回収の見込みがないと認められれば、回収不能部分を評価から除けることがあります。単に「返してくれない」だけでは減額されません。借りていたお金は債務控除の対象ですが、借用書や振込記録で存在と残額を示す必要があり、証拠のない債務は控除を否認されます。
贈与との区別——親から子への「貸付」が、返済の実績も予定もなく借用書もない場合、税務署は贈与と認定し、贈与税や相続財産への持ち戻しの対象にすることがあります。親族間の貸し借りこそ、借用書・返済条件・振込での返済という形を整えてください。
貸したお金・借りたお金を、財産目録に——貸付金は財産欄に、借入は債務欄に、証拠の有無とともに書き出せば、遺産分割の争点が見え、相続税の評価と控除の準備も進みます。画面のステップに沿って無料でつくれます。
財産目録をつくるよくある質問(FAQ)
親が弟に貸した300万円、弟は「もらった」と言っています。
通帳の振込記録と、返済の入金があるかを確認してください。返済の記録があれば貸付、一度もなければ贈与と見られやすくなります。貸付なら弟の相続分から差し引く協議、贈与なら特別受益として同じく差し引く主張ができます。「貸付か贈与か」より「300万円を弟が受けた事実」を証拠で固め、遺産分割で調整するのが現実的です。
親の知人から「200万円貸していた」と言われました。払わないといけませんか?
証拠の提示を求めてください。借用書や振込記録で借入の事実と残額が確認できれば、相続債務として法定相続分で負担します。証拠がなく親の通帳にも入金の形跡がなければ、支払いに応じる義務はありません。相手が訴訟を起こせば、貸した事実の立証責任は相手側にあります。相続放棄を考えているなら、この債務も放棄で免れます。確認できた債務は、相続税の債務控除の対象になるため記録を残してください。
親が貸していたお金を、相続人の誰が回収しますか?
金銭債権は法定相続分で当然に分割されるのが原則ですが、実務では遺産分割協議で「貸付金は長男が取得する」と決め、長男が借主に請求する形が一般的です。取得した人が回収できなかった場合のリスクも負うため、回収の見込みを踏まえて評価額を決め、他の財産で調整します。借主に一括返済が難しければ、分割返済の合意書を作って引き継いでください。
親から借りたお金を返さないまま、親が亡くなりました。相続でどうなりますか?
あなたが相続人なら、親の貸付金のうちあなたの相続分に当たる部分は混同で消滅し、他の相続人の相続分に当たる部分は、あなたが他の相続人に返済する義務を負います。実務では、借りていた額を特別受益に準じてあなたの相続分から差し引く形で協議することが多く、その旨を遺産分割協議書に明記します。借りた事実を隠すと、後で通帳から発覚したときに信頼を失い、協議が難航します。最初に開示してください。
まとめ
親が個人に貸していたお金は相続財産、借りていたお金は相続債務です。借用書がなければ通帳の振込・返済記録、メモ、当事者の証言で貸し借りを証明し、証拠がなければ貸付か贈与かが争いに。借主が相続人なら混同で消滅し特別受益に準じて相続分から差し引き、相続人が「貸していた」と主張するなら証拠を求める。時効は原則5年(改正前は10年)、貸付金は回収不能なら評価減、債務控除には証拠が要り、返済実績のない親族間の貸付は贈与認定のリスク。貸付金と借入を財産目録に書き出すことから始めてください。
あわせて読みたい
この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。