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配偶者が認知症のとき、相続はどうなる?夫婦二人世帯の備え
相続の備えは「親から子へ」で語られがちですが、実際にいちばん詰まりやすいのは高齢の夫婦二人世帯です。妻に認知症があり、夫が介護している。あるいはその逆。この状態で元気な側が先に亡くなると、残された配偶者は遺産分割にも自宅の売却にも関われません。
子が駆けつけても、動かせるものがない——これが夫婦二人世帯の詰みです。相続人が認知症の場合の一般論は「相続人が認知症だと遺産分割できない?」に譲り、この記事では夫婦二人世帯に特有の構造と、元気な側が今できる備えに絞ります。
①怖いのは「認知症のある側が残される」順番。遺産分割協議ができず、自宅も預金も止まる ②遺言があれば協議は不要になるが、残された配偶者自身の財産は別問題として残る ③備えは二本立て——元気な側の遺言と死後の設計/認知症のある側の財産管理の道筋 ④子のない夫婦は義理の兄弟姉妹との協議になり、深刻さが一段上がる
順番で結果が変わる——2つのシナリオ
| どちらが先に亡くなるか | 起きること | 難易度 |
|---|---|---|
| 認知症のある側が先 | 相続人は元気な配偶者と子。通常どおり遺産分割ができる | 通常の相続 |
| 元気な側が先 | 相続人に認知症の配偶者が含まれ、遺産分割協議が成立しない。成年後見人の選任が必要になる | 手続きが止まる |
| 元気な側が先+遺言あり | 協議が不要になり、財産の行き先は決まる | 一部解決 |
| 元気な側が先+遺言+信託 | 行き先も、その後の管理・売却も動く | 解決 |
介護している側が先に倒れるのは珍しくありません。介護者のほうが心身に負荷を抱えているからです。
詰みパターンの正体
元気な夫が亡くなり、認知症の妻と子が残された——このとき何が止まるのか。
- 遺産分割協議ができない——妻が有効に意思表示できないため、協議は無効になり得ます。預金の解約も名義変更も進みません
- 自宅が売れない——妻が相続した(あるいは共有する)自宅は、妻の判断能力がなければ売却できません(できなくなること一覧)
- 妻自身の預金も凍結——夫の相続とは別に、妻名義の口座も窓口で止まります
- 子は代理できない——子にも当然の代理権はなく、後見の申立てなしには動けません
- 施設費用が出せない——夫の死後に妻の入所が必要になっても、原資に手が届きません
結果として法定後見の申立てが事実上の必須に。時間も費用もかかり、後見人が親族以外になることもあります(後見人制度とは)。「遺言さえ書いてあれば」と後悔するのが、この局面です。
元気な側が今できる備え
備えは二本立てです。
- 遺言を書く——最優先。これだけで遺産分割協議が不要になり、詰みの半分が解けます。認知症の配偶者に何を残すか、住まいをどう確保するかを明記します(遺言書3種類の比較)
- 遺言執行者を指定する——手続きを実行する人を決めておけば、子が単独で預金の解約や名義変更を進められます(遺言執行者とは)
- 自分の財産を家族信託に入れる——自分が認知症になる場合にも、亡くなった後の承継にも効きます。受益者を配偶者、その次を子と設計すれば、配偶者の生活を守りつつ最終的な行き先まで決められます(受益者連続型信託)
- 配偶者の財産の見える化——認知症のある側の預金・保険・年金を財産目録に。後見の申立てになった場合も、この資料がそのまま使えます
- 子への共有——通帳や証書の所在、かかりつけ医、契約している介護サービス。倒れてからでは伝えられません
認知症の配偶者に自宅を相続させると、その後に売れなくなる一方、子に相続させると配偶者の住まいが不安定になります。この矛盾を解く選択肢が配偶者居住権と家族信託です。住む権利だけを確保するなら配偶者居住権、売却や管理まで動かしたいなら信託——目的で使い分けます。二次相続の税額まで含めた比較は「二次相続とは」も参考に。
すでに進行している場合/子のない夫婦
配偶者の認知症がすでに進んでいる場合でも、元気な側にできることは残っています。上の①②③は自分の財産についての手当てなので、相手の判断能力とは無関係に実行できます。配偶者側の財産管理は法定後見が現実解になる可能性が高いため、その前提で子と段取りを共有しておいてください。
子のない夫婦は深刻さが一段上がります。相続人が配偶者と、亡くなった人の兄弟姉妹になるためです。認知症の配偶者が面識の薄い義理の兄弟姉妹と協議する構図になり、後見人なしには成立しません。さらに配偶者の死後、財産が配偶者側の親族へ流れ、もとの家系に戻らないという問題も生じます。この類型こそ、遺言と信託の効果が最も大きいのです(「子のない夫婦こそ遺言書を」/兄弟姉妹には遺留分がない点は「兄弟姉妹に遺留分はない」)。
まずは夫婦二人分の財産を1枚に——どちらの名義に何があるかが見えて初めて、遺言も信託も設計できます。後見の申立てになった場合もそのまま使えます。財産目録は無料・登録不要です。
財産目録をつくるよくある質問(FAQ)
夫婦のどちらが先に亡くなるかは分かりません。備えは両方に必要ですか?
両方に必要です。夫婦二人世帯の怖さは、順番が読めないことにあります。認知症のある側が先に亡くなれば通常の相続で済みますが、元気な側が先に亡くなると、残された配偶者は遺産分割にも自宅の売却にも関われません。したがって備えは、元気な側が自分の死に備えて遺言を用意すること、そして認知症のある側の財産管理の道筋を確保すること、この二本立てになります。片方だけでは穴が残ります。
妻が認知症です。私(夫)が遺言を書けば、それだけで足りますか?
大きな前進ですが、それだけでは足りません。遺言があれば遺産分割協議は不要になり、あなたの財産の行き先は決まります。しかし残された妻自身の財産、たとえば妻名義の預金や、相続で妻のものになった自宅は、妻の判断能力がない限り動かせないままです。介護費用や施設入居金を妻の財産から出す必要が生じたとき、そこで詰まります。遺言に加えて、妻の財産の管理者を決める手当てが要ります。
すでに配偶者の認知症が進んでいます。今からできることはありますか?
あります。認知症のある側は新たな契約が難しくても、元気な側にできることは残っています。まず遺言を書くこと。次に、自分の財産について家族信託や任意後見を用意し、自分が倒れた後も子が動ける状態を作ること。あわせて、配偶者の財産の全体像を財産目録にまとめ、通帳や証書の所在を子に共有しておくことです。配偶者側の財産管理は最終的に法定後見の申立てになる可能性が高いので、その前提で子と段取りを共有しておくと混乱が減ります。
子がいない夫婦の場合、何が変わりますか?
深刻さが一段上がります。子がいない場合、相続人は配偶者と、亡くなった人の親または兄弟姉妹になります。認知症のある配偶者が面識の薄い義理の兄弟姉妹と協議することになり、実際には成年後見人を立てなければ協議が成立しません。さらに配偶者の死後、財産がもとの家系に戻らないという問題も生じます。子のない夫婦こそ、遺言と信託による設計の効果が大きい類型です。
まとめ
夫婦二人世帯で怖いのは、認知症のある側が残される順番です。遺産分割協議は成立せず、自宅も預金も止まり、法定後見の申立てが事実上の必須になります。備えは二本立て——元気な側が遺言と遺言執行者を用意し、自分の財産を信託で設計すること。そして配偶者の財産を見える化して子に共有すること。住まいの確保は配偶者居住権と信託を目的で使い分けます。順番は選べませんが、「自分が先に逝く」前提で組んでおけば、どちらの順番でも家族は動けます。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。