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相続人が認知症だと遺産分割できない?後見人なしで進める方法と遺言による予防策
「父が亡くなったが、相続人である母が認知症で話し合いができない」——高齢化で急増している相談です。最初に原則をお伝えします。遺産分割協議は法律行為であり、意思能力を欠く相続人が加わった協議は無効です。家族が代わりに署名する・成年後見人でない人が代理することも認められません。
では手続きは完全に止まってしまうのか。選択肢は3つ——①成年後見人を立てて協議する ②協議せず法定相続分のまま相続する ③(あれば)遺言で協議自体を不要にする。この記事では各選択肢の実際と限界、放置した場合に起きること、そして「同じ問題を次の相続で繰り返さない」ための予防策までを解説します。
原則の確認——なぜ協議できないのか
- 遺産分割協議は「誰が何を取得するか」を決める契約の一種で、参加者全員に意思能力(判断能力)が必要です。認知症の程度が重く内容を理解できない相続人の署名押印は、たとえ本人が実印を押せても法的に無効です
- 「母の分は長男が代筆」「委任状を書かせて代理」はすべて不可。無効な協議書で不動産登記や預金解約が通ってしまった場合でも、後から他の相続人や本人側が無効を主張でき、手続き全体がひっくり返るリスクを抱え続けます
- なお、認知症=即アウトではありません。軽度で、協議内容を理解し自分の意思を示せる状態なら協議は有効です。判断に迷う場合は、医師の診断(長谷川式等の検査結果)と、公証人や専門家の面前での意思確認を残す方法があります
選択肢①:成年後見人を立てて協議する
- 判断能力を欠く相続人のために家庭裁判所で成年後見人を選任し(成年後見の申立て方法)、後見人が本人に代わって協議に参加する——これが法律の予定する正攻法です
- ただし現実を知っておいてください。①後見人は本人の利益を守る立場なので、原則として本人の法定相続分を確保する分割にしか同意できません(「母の取り分はゼロで長男に全部」といった柔軟な分け方は不可)。②相続手続きが終わっても後見は本人が亡くなるまで続き(成年後見をやめたい)、専門職が就けば報酬(月2〜6万円・成年後見人の報酬)も継続します。③親族が後見人でも、本人も相続人である場合は利益相反となり、協議のために特別代理人の選任が必要です
- 「協議のためだけに後見」のつもりが一生続く——このギャップが後悔の最大要因です。申立て前に、次の選択肢②で足りないかを必ず検討してください
選択肢②:協議せず「法定相続分」で相続する
- 遺産分割協議が必要なのは「法定相続分と違う分け方」をするからです。法定相続分どおりで良ければ、協議なしで進められる手続きがあります
- 不動産:法定相続分での相続登記は、相続人の一人からでも(保存行為として)申請でき、認知症の相続人の関与なしに登記できます。ただし共有名義になるため、その後の売却には結局全員の意思(=後見)が必要になり、問題の先送りである点は認識を
- 預貯金:判例上、預貯金は遺産分割の対象とされているため、法定相続分でも銀行は原則として相続人全員の関与を求めます。ただし遺産分割前の払戻し制度(口座ごとに残高×1/3×法定相続分、同一金融機関で上限150万円)は単独で利用でき、当面の生活費・葬儀費用はここから確保できます
- 現実的な使い方:急がない財産は法定相続分のまま凍結気味に維持し、後見はどうしても必要になった時点(不動産売却・多額の払い出し)まで温存する——という時間稼ぎ戦略です。ただし相続税の申告期限(10か月)がある家庭では、未分割申告になると配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例がいったん使えない(申告期限後3年以内の分割見込書で事後適用可)ため、税理士との作戦会議が必須です
選択肢③:遺言があれば協議は不要——そして最大の教訓
- 亡くなった方が遺言書を残していれば、遺産は遺言のとおりに承継され、遺産分割協議自体が不要です。認知症の相続人がいても、遺言執行者(遺言執行者)が手続きを進められます。まず遺言書の有無を徹底的に探してください(法務局の保管制度の照会・公証役場の遺言検索)
- そしてこれが本記事の最大の教訓です。配偶者の一方が認知症、または認知症リスクが高い家庭では、元気な側が遺言を書いておくことが「次の相続」を救う唯一にして最強の予防策です。父が「全財産を長男に相続させる。長男は母の扶養と療養看護を担う」等の遺言(遺留分への配慮つき・遺留分とは)を残しておけば、母の後見は不要でした
- さらに進んだ予防が家族信託(家族信託と成年後見の違い)です。父の財産を信託しておけば、父の死後の承継先指定(遺言機能)に加え、父の生前の認知症リスクにも同時に備えられます。「両親とも高齢」の家庭では遺言+信託の併用が最有力です
放置だけは避ける——時間はリスクを増やす
- 「母が亡くなってから一緒に手続きすればいい」という放置戦略には落とし穴があります。①相続登記の義務化(3年・過料)②未分割のまま10年経過すると特別受益・寄与分の主張ができなくなる(特別受益とは)③その間に他の相続人が亡くなる数次相続で当事者が増殖する
- 少なくとも「払戻し制度での当面資金確保」「法定相続分での登記」「相続税の申告(未分割申告+分割見込書)」は期限内に済ませ、意図的な現状維持と無計画な放置を区別してください
よくある質問(FAQ)
母は施設にいますが、調子の良い日は話が通じます。協議できますか?
可能性はあります。協議が有効かは診断名ではなく「協議の内容を理解し、自分の意思で判断できるか」で決まります。まだら状態の場合、①かかりつけ医に意思能力について診断書を依頼 ②調子の良いタイミングで、専門家(司法書士等)同席のもと内容を平易に説明し、本人の言葉での意思確認を記録 ③可能なら公正証書化——という手順でリスクを下げられます。無理筋を通すと後で全部無効になるため、際どい場合は専門家の面談判断を仰いでください。
後見人を立てる場合、家族がなれますか?費用を抑えたいです。
家族を候補者として申し立てることはできますが、選任は家庭裁判所の判断で、遺産分割という利益相反案件が控えている場合は専門職が選ばれやすい傾向があります。家族が後見人になれた場合でも、協議では特別代理人の選任が必要です(あなた自身も相続人なら、あなたは母の代理ができません)。費用を抑える観点では、そもそも選択肢②(法定相続分)で目的を達せられないかを先に検討するのが定石です(成年後見の申立て方法・成年後見人の報酬・市民後見人とは)。
認知症の母にも遺留分や相続税の申告義務はありますか?
あります。母が相続人である以上、相続税の申告義務(基礎控除超の場合)は母にも生じ、実務上は家族が納税管理や後見人を通じて対応します。配偶者の税額軽減(1.6億円まで非課税)は母の取得分に適用できるため、税額面では母に一定の財産を取得させるのが有利なことも多い——ただし母の相続(二次相続)で課税が重くなる逆転もあり、一次・二次をセットで税理士に試算してもらってください。
まとめ
- 意思能力を欠く相続人がいる協議は無効。代筆・家族の代理は不可
- 選択肢は3つ:後見を立てて協議(法定相続分の確保が原則・終身継続)/協議せず法定相続分(払戻し制度・保存行為の登記)/遺言があれば協議不要
- 放置はNG:登記義務3年・分割10年ルール・数次相続のリスクが積み上がる
- 最大の教訓は予防。配偶者が高齢の家庭は、元気な側の遺言+家族信託を今すぐ
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。