相続税が払えない|延納・物納・売却の使い分けと期限
遺産の大半が実家や土地で、預金はわずか——それでも相続税は申告期限(亡くなってから10か月)までに現金で一括納付が原則です。「払えないから待ってもらう」は自動的には認められず、期限を過ぎると延滞税がつきます。
払えないときの選択肢は、延納・物納・売却・借入の4つ。どれも一長一短で、しかも延納と物納は申告期限までに申請しないと使えません。この記事では、4つの使い分けと順番、期限までにやることを整理します。
①相続税は10か月以内に現金一括が原則。払えなくても申告は期限内に行い、延納・物納は申告期限までに申請書を出す ②延納は5〜20年の分割払い。税額10万円超・納付が困難な金額の範囲・担保の提供が要件で、年0.1〜1%台の利子税がつく ③物納は延納でも払えない場合だけ認められ、不動産・上場株などを相続税評価額で納める。要件が厳しく、実務では売却のほうが多い ④現実的な順番は「預金→売却→延納→物納」。不動産を売る場合は取得費加算や空き家の3,000万円控除で手取りを増やせる。期限を過ぎると延滞税がかかるため、先に申告と延納申請を済ませる
まず知ること——「払えない」でも申告と申請の期限は動かない
相続税の納付期限は申告期限と同じ亡くなった日の翌日から10か月以内。過ぎると納めるまで延滞税(年2〜9%程度、時期で変動)がかかり、「現金がない」事情は考慮されません。
ただし、払えない人のために延納(分割払い)と物納(現物で納める)という制度が用意されています。注意すべきは、どちらも申告期限までに申請書と添付書類を税務署へ出す必要があること。申告書を出さずに放置すると、延納も物納も使えないまま無申告加算税と延滞税だけが積み上がります。払えないときこそ、まず申告と申請を期限内に済ませてください(「相続手続きの期限一覧」)。
延納——分割払いの要件・担保・利子税
| 項目 | 延納の内容 |
|---|---|
| 使える条件 | ①相続税額が10万円超 ②現金で納めるのが困難な金額の範囲内 ③担保を提供する(延納税額100万円以下かつ3年以内なら担保不要) |
| 期間 | 原則5年以内。遺産に占める不動産の割合が高いほど長く、最長20年 |
| 利子税 | 年0.1〜1%台(不動産の割合と公定歩合に連動。2026年8月時点) |
| 担保になる物 | 相続した不動産・上場株・国債など |
| 申請 | 申告期限までに延納申請書+担保関係書類を提出。3か月以内に許可・却下 |
ポイントは「困難な金額の範囲内」です。手元の現金から生活費3か月分程度を除いた額はまず納め、残りだけが延納の対象になります。全額を分割にできる制度ではありません。利子税は住宅ローンより低く、不動産を手放したくない家には有力な選択肢です。
物納——延納でも無理なときの最終手段
物納は、延納によっても現金で納めることが困難な場合に限り、相続した財産そのもので納める制度です。使える財産には順位があり、第1順位が不動産・上場株式・国債など、第2順位が非上場株式、第3順位が動産です。
実務で使いにくい理由は3つ。①納める価額は時価ではなく相続税評価額で、時価より低いことが多い、②境界が確定していない土地・担保付きの不動産・共有物件などは「管理処分不適格財産」として受け付けられない、③測量や書類の準備に費用と時間がかかる。結果として、時価が評価額を上回る不動産なら売却して現金で納めるほうが手取りが残ることがほとんどです。物納が向くのは、市場で売れにくい土地を評価額どおりに引き取ってもらえる場合に限られます。
売却・借入という現実解と、4つの使い分け
- 預金・保険金で払う——故人の口座は遺産分割前でも仮払い制度で一定額を引き出せます。死亡保険金は受取人固有の財産なので、受け取ってすぐ納税に充てられます
- 不動産を売って払う——10か月以内の売却は急ぎですが、最も多い解決策。相続後3年10か月以内の売却なら払った相続税の一部を取得費に加算でき、空き家なら3,000万円控除も検討します(「相続した不動産を売却したときの税金」)。期限に間に合わないなら、いったん延納申請をして売却後に繰り上げ返済する方法があります
- 延納する——不動産を残したい、売却に時間がかかる場合。利子税が低く、借入より有利なことが多い
- 金融機関から借りる——延納の要件を満たさない場合。金利は延納の利子税より高いのが一般的
- 物納する——上のどれも難しい場合の最終手段
誰がどの財産を取得するかで、納税できる人とできない人が分かれます。不動産を取得する人には納税資金になる預金も配分する——この調整を遺産分割の段階でしておくことが、「払えない」を防ぐ一手です。
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遺産分割協議書をつくるよくある質問(FAQ)
遺産分割がまとまらず、誰がいくら払うか決まりません。
未分割でも期限は延びません。法定相続分で相続したものとして各自が申告・納税し、分割後に修正申告や更正の請求で精算します。この場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例はいったん使えず、税額が大きくなりがちです。3年以内に分割すれば後から使えるため、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しておいてください。分割が進まないなら調停も視野に入れます。
延納中に払えなくなったらどうなりますか?
延納の分割金を滞納すると、税務署から督促があり、それでも納めないと延納の許可が取り消され、残額を一括で請求されることがあります。担保に入れた不動産が差し押さえ・公売の対象になる可能性もあります。払えなくなりそうな時点で税務署に相談すれば、延納の条件変更(期間の延長など)が認められる場合があります。また、延納中に事情が変わって現金納付が難しくなった場合は、申告期限から10年以内なら物納への切り替え(特定物納)を申請できます。
相続放棄をすれば相続税を払わなくて済みますか?
放棄した人に相続税はかかりません。ただし放棄は亡くなったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、借金だけでなく実家や預金も一切受け取れなくなります。「税金が払えないから」だけで放棄すると、財産の価値が税額を大きく上回る場合に損をします。財産と税額の全体像を把握したうえで3か月以内に判断してください。なお死亡保険金は放棄しても受け取れますが、その分には相続税がかかります。
自分の預金で払えます。相続財産から出さないといけませんか?
納税は各相続人の義務なので、自分の預金から払って構いません。相続財産から払う場合は、遺産分割で納税分を考慮した配分にするか、相続人全員の合意のもと故人の口座から払います。注意したいのは連帯納付義務——相続税は、他の相続人が納めないと、自分の相続分を限度に代わりに納める義務を負います。兄弟の一人が「払えない」まま放置すると、自分に請求が来ることがあるため、全員の納税のめどを協議の段階で確認しておいてください。
まとめ
相続税は10か月以内に現金一括が原則——払えなくても、申告と延納・物納の申請だけは期限内に。選択肢は預金→売却→延納→借入→物納の順で考えるのが現実的で、延納は利子税が低く不動産を残せる、物納は評価額で納めるため損になりやすい、売却は取得費加算や3,000万円控除で手取りを増やせます。そして根本の対策は遺産分割——不動産を取得する人に納税資金も配分する分け方が、「払えない」を最初から防ぎます。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。