ホームゾウゾクノート / 共有名義の不動産を家族信託で1本化する

家族信託

共有名義の不動産を家族信託で1本化する|共有者の認知症リスク

公開日 2026年8月25日 ・ 更新日 2026年8月25日 ・ 8分で読めます

兄弟で相続した実家、夫婦の共有名義の自宅、親子で持ち合っている土地——共有名義の不動産には、あまり語られない時限爆弾があります。共有者が一人でも認知症になった瞬間、売ることも、大規模修繕をすることもできなくなる

持分が10分の1でも同じです。全体を売るには全員の意思確認が要るからです。この塩漬けを防ぐ方法のひとつが、持分を信託して管理と処分の権限を一人に集約する設計。すでに起きてしまった共有の解消手段は「共有名義を解消する方法」に譲り、ここでは持ち続ける前提での備えを扱います。

この記事の要点

①共有不動産は、共有者が一人でも判断能力を失うと売却も大規模修繕も止まる。持分の大小は関係ない ②各共有者が持分を同じ受託者に信託すれば、管理と処分の窓口が1つになり、誰かが認知症になっても動かせる ③名義は移るが、経済的な利益は受益者として各共有者に残る ④契約には全員の合意が要るため、動けるのは全員が元気なうちだけ

共有不動産に潜む時限爆弾

共有不動産では、行為の種類によって必要な同意が変わります。売却や建て替えといった処分には共有者全員の同意が必要で、一人でも意思表示ができなくなれば止まります。

やりたいこと必要な同意共有者の1人が認知症になると
売却する・建て替える全員の同意できない
長期の賃貸に出す・大規模な変更持分の割合に応じた同意等難しくなる
修繕など現状の維持各共有者が単独でできる行為もある限定的に可能
自分の持分だけを売る単独で可能本人が認知症なら不可
共有物の管理・変更のルールは民法の規定によります。個別の行為がどれに当たるかは事案により異なるため、実行前に専門家にご確認ください。

怖いのは、共有者が増えるほど、誰か一人が認知症になる確率が上がることです。相続のたびに持分が細分化されれば、確率はさらに上がります(共有者の片方が亡くなったら)。そして施設入居費用のために実家を売ろうとした段階で、初めて動かないことに気づきます(できなくなること一覧)。

持分を信託して1本化する仕組み

設計はシンプルです。共有者それぞれが自分の持分を委託者として、同じ受託者(管理を担う子など)に信託する。受託者の名義に一本化され、管理も売却の手続きも受託者が単独で進められるようになります。

ここで多くの人が引っかかるのが「自分の財産でなくなるのでは」という不安ですが、名義は移っても、経済的な利益は受益者として各共有者に残ります。売却代金も家賃も、持分に応じて受益者へ。変わるのは「誰が手続きするか」だけです(委託者・受益者とは)。

この設計の要点

効果を出すには共有者全員が信託することが前提です。一部だけ信託しても、信託していない共有者が認知症になれば売却は止まります。つまりこの対策は、全員が元気で、全員が合意できるうちにしか実行できません

共有解消との使い分け

共有名義の問題には、そもそも共有をやめるという道もあります。どちらを選ぶかは目的次第です。

  • 手放す・関係を終わらせたいなら解消——持分の売買や贈与で一人に集約する、全員で売却する、話がまとまらなければ共有物分割請求へ(共有名義を解消する4つの手段
  • 持ち続けたいなら信託——収益物件として運用を続けたい、当面は誰かが住む、売り時を待ちたい。この場合は共有のまま権限だけを集約します

判断の目安は「5年10年先も、この不動産を家族で保有し続けたいか」。手放す方向なら解消が本筋で、信託は遠回りになります。

実務の注意点——合意・費用・税務

  1. 全員の合意を取る順番——一人ずつ個別に説明し、目的(凍結の回避)と、財産の帰属は変わらないことを伝える。全員が集まる場で一気に決めようとすると、警戒されて止まります
  2. 受託者の選び方——共有者の一人が受託者になるのが一般的ですが、他の共有者から見て納得できる人選かが重要。不安があれば信託監督人を置きます
  3. 費用——専門家報酬に加え、信託の登記にかかる登録免許税などの実費。共有者が多いほど調整の手間と報酬は上がります(費用の内訳
  4. 税務——各自が自分の持分を信託し自分が受益者なら原則として課税関係は生じませんが、受益者を別人にすると贈与税の論点が生じます。賃貸物件なら損益通算の制限
  5. ローン付きなら金融機関の承諾——抵当権が設定されていれば事前の同意が前提です(ローン付き不動産の家族信託

そしてもうひとつ、将来の承継まで決められるのがこの設計の副産物です。受益権の行き先を契約で指定しておけば、共有者の誰かが亡くなるたびに持分が細分化していく連鎖を止められます(受益者連続型信託)。

共有者全員で、財産の全体像を共有する——持分の割合、評価額、ローンの有無。財産目録を1枚作れば、合意形成の話し合いが具体的になります。無料・登録不要です。

財産目録をつくる

よくある質問(FAQ)

共有者の一部だけが信託しても意味がありますか?

効果は限定的です。不動産全体を売却するには共有者全員の関与が必要なため、信託していない共有者が認知症になれば、結局その時点で売却は止まります。信託した持分については受託者が管理を続けられる利点はありますが、塩漬けを防ぐ目的からすると不十分です。実務では、共有者全員が同じ受託者に持分を信託し、管理と処分の窓口を1つにまとめるのが基本形です。一部しか賛同が得られない場合は、共有の解消そのものを先に検討したほうが早いこともあります。

信託すると、持分を持っている実感がなくなりませんか?

その心配は不要です。名義は受託者に移りますが、経済的な利益を受け取る立場は受益者として各共有者に残ります。売却代金も家賃も、それぞれの持分に応じて受益者に帰属する設計にできます。つまり変わるのは「誰が手続きをするか」であって、「誰の財産か」ではありません。ここを共有者全員が正しく理解しているかが契約成立の分かれ目になるため、説明には時間をかけてください(委託者・受益者とは)。

信託と、共有名義の解消はどちらを選ぶべきですか?

目的で分かれます。共有関係そのものを終わらせたいなら、持分の売買や贈与で一人に集約する、全員で売却するといった解消が本筋です。一方、当面は共有のまま持ち続けたいが、認知症で動かせなくなるのは避けたいなら信託が向きます。判断の目安は、5年10年先もこの不動産を家族で保有し続けたいかどうか。手放す方向なら解消を、持ち続ける方向なら信託を検討してください。

費用や税金はどうなりますか?

費用は、専門家報酬に加えて信託の登記にかかる登録免許税などの実費が生じ、共有者が多いほど調整の手間と報酬が上がる傾向があります。税務は、各共有者が自分の持分を信託し自分が受益者となる形なら、実質的な持ち主が変わらないため原則として課税関係は生じないと整理されます。ただし受益者を別の人にすると贈与税の論点が生じ、賃貸物件なら損益通算の制限も及びます。設計前に必ず税理士へご確認ください。

まとめ

共有名義の不動産は、共有者が一人でも判断能力を失えば売却も建て替えも止まります。持分の大小は関係ありません。これを防ぐのが、各共有者が持分を同じ受託者に信託して管理と処分の窓口を1つにまとめる設計です。名義は移りますが、経済的な利益は受益者として各自に残ります。手放す方向なら共有の解消が本筋、持ち続けるなら信託——目的で使い分けてください。そして忘れてはいけないのが、この対策は全員が元気で合意できるうちにしか実行できないということです。

家族信託契約書の下書きを、無料でつくりませんか

共有者全員が元気なうちにしか組めない設計です。画面のステップに沿って入力するだけで下書きが完成し、家族への説明資料としても使えます。登録不要・ブラウザだけで完結します。

あわせて読みたい

この記事の監修

ゾウゾクグループ

長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。

ご利用にあたって:本記事は一般的な情報提供であり、法律・税務の個別助言を行うものではありません。共有物の管理・変更に必要な同意の範囲や、信託に伴う税務の取扱いは個別の事情により異なります。実行にあたっては必ず専門家にご相談ください。(本文中の情報は2026年8月時点にもとづきます)