任意後見契約書は、なぜ公正証書でないと無効なのか
任意後見契約は、判断能力が落ちた後の生活・療養看護・財産管理を、あらかじめ決めておいた人に任せる契約です。ところがこの契約だけは、他の生前対策の書類と決定的に違う点があります。公正証書で作らなければ、契約そのものが無効になることです。
私文書で作っても契約は成立しない
根拠は任意後見契約に関する法律3条です。任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない、と定められています。当事者どうしが署名押印した書面を交わしても、それは任意後見契約として成立しません。
ここまで厳格なのには理由があります。任意後見契約は、本人の判断能力が低下した後に効き始める契約です。つまり、いざ代理権が使われる場面では、本人はもう「そんな契約をした覚えはない」と争えない状態にあります。契約時点で本人の意思をきちんと確認しておかなければ、後から検証する手段が残らないのです。
そこで法律は、公証人という第三者を必ず関与させ、次の3点を確認させることにしました。
- 本人に契約を理解できるだけの判断能力があるか
- 本人が家族などに言われるまま署名しているのではなく、自分の意思で契約しているか
- 代理権の範囲が明確に特定されているか(代理権目録の記載)
もう一つの理由が登記です。任意後見契約は締結後、公証人の嘱託により法務局に登記されます。誰が任意後見受任者で、どこまでの代理権を持つのかが公的に記録され、金融機関や役所はその登記事項証明書で権限を確認します。この登記の入口が公正証書に限られているため、私文書では制度そのものに乗ることができません。
家族信託契約書との決定的な違い
混同されやすいのが家族信託契約書です。こちらは私文書でも法律上は有効に成立します。実務で公正証書にするのは、金融機関で信託口口座を開設するために事実上求められるからであって、法律が要求しているわけではありません。
| 任意後見契約書 | 家族信託契約書 | |
|---|---|---|
| 公正証書 | 法律上の必須要件 | 実務上の要請(任意) |
| 私文書の効力 | 無効 | 有効 |
| 効力発生 | 監督人が選ばれたとき | 契約時(定めによる) |
| 公的な登記 | 後見登記(法務局) | 不動産があれば信託登記 |
| カバー範囲 | 身上保護+財産管理 | 信託した財産のみ |
契約した日には、まだ効力が生じない
見落とされがちですが、任意後見契約は結んだ時点では動き出しません。本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから効力が生じます。申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者です。
この監督人は必ず付きます。受任者が実の子であっても、報酬をゼロと定めていても、監督人への報酬(家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われます)は避けられません。「家族に任せるのだから費用はかからない」という理解で契約すると、発効時に想定外の負担が生じます。
解除のルールも段階で変わります。監督人が選任される前であれば、公証人の認証を受けた書面でいつでも解除できます。しかし発効後は、正当な事由があり、かつ家庭裁判所の許可を得なければ解除できません。「合わなければ後でやめればいい」という契約ではない、という点は押さえておいてください。
なお、契約の設計は判断能力の状態によって3つに分かれます。今すぐの支援は不要で将来に備える将来型、財産管理等委任契約や見守り契約と組み合わせて今から支援を受ける移行型、判断能力が低下し始めており締結後すぐ申立てを行う即効型です。実務でもっとも多いのは移行型です。
公証役場での流れと費用の内訳
手続きは、原案を持ち込んで公証人と内容を詰め、日程を決めて本人と受任者が公証役場に出向く、という流れです。原案は自分で用意して構いません。むしろ、代理権の範囲を自分たちで検討してから相談したほうが、打ち合わせの回数は減ります。
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| 公正証書の作成手数料(1契約) | 13,000円 |
| 証書が3枚を超える分 | 1枚 300円 |
| 登記嘱託手数料 | 1,600円 |
| 法務局へ納める収入印紙 | 2,600円 |
| 正本・謄本の作成(書面の場合) | 1枚 300円 |
| 登記用の書留郵便料 | 実費 |
ここに挙げたのは公証役場と法務局に支払う費用だけです。司法書士や弁護士に契約書の作成を依頼する場合、その報酬(8万〜15万円程度が一般的)が別に必要になります。
当日までに用意するもの
公証役場によって細部は異なりますが、標準的に求められるのは次の書類です。印鑑登録証明書は発行から3か月以内のものを求められるのが通例なので、取得のタイミングに注意してください。
- 本人:印鑑登録証明書、実印、戸籍謄本、住民票
- 受任者:印鑑登録証明書、実印、住民票(法人が受任する場合は登記事項証明書)
当日は公証人が本人に直接質問し、契約内容を理解しているかを確認します。家族が代わりに答えてしまうと確認が成立しないため、本人が自分の言葉で答えられる状態のうちに進めることが何より重要です。
よくある質問(FAQ)
契約書を自分で作って公証役場に持ち込んでもいいですか?
問題ありません。むしろ原案を用意して持ち込むほうが、打ち合わせがスムーズに進みます。ただし公正証書として作成しない限り契約は無効ですので、必ず公証役場で正式に作成してください。当サイトの任意後見契約書ツールで下書きを作れます。
受任者が家族なら、監督人の報酬はかかりませんか?
かかります。受任者が実の子であっても、任意後見監督人は必ず選任されます。監督人の報酬は家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われます。「家族に任せるのだから費用はかからない」という理解で契約すると、発効時に想定外の負担が生じます。
あとから契約をやめることはできますか?
段階によって変わります。監督人が選任される前であれば、公証人の認証を受けた書面でいつでも解除できます。しかし発効後は、正当な事由があり、かつ家庭裁判所の許可を得なければ解除できません。「合わなければ後でやめればいい」という契約ではない点に注意してください。
任意後見契約書
公証役場に持ち込む原案を、ステップに沿って入力するだけで作成できます。代理権の範囲を項目から選べるので、何を任せるかを家族で確認しながら詰められます。会員登録は不要、入力内容はブラウザ内でのみ処理されます。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。