認知症で親の銀行口座が凍結される?解除の可否と凍結前にできる5つの対策【決定版】
「親が認知症と診断されたら、銀行口座が凍結されてお金を引き出せなくなるらしい」――そんな話を聞いて、不安になっていませんか。
結論からお伝えすると、これは本当です。銀行が預金者本人の判断能力の低下を把握すると、口座は事実上「凍結」され、たとえ配偶者や子どもであっても、原則として預金を引き出したり定期預金を解約したりできなくなります。介護費用や施設の入居一時金など、まさに「親のために使いたいお金」が使えなくなるのが、この問題のいちばんの実害です。
さらに重要なのは、凍結されてからでは打てる手がほとんどないという点です。凍結後の正攻法は成年後見制度の利用に限られ、一度始めると原則として本人が亡くなるまでやめられず、専門職後見人への報酬が毎月発生し続けるケースも少なくありません。
一方で、親がまだ元気なうち(=契約に必要な判断能力があるうち)であれば、家族信託をはじめとする複数の対策で、口座凍結のリスクはほぼ確実に回避できます。
この記事では、①なぜ口座が凍結されるのか、②凍結されたら解除できるのか、③凍結される前にできる5つの対策とその比較、④その中でも家族信託が最有力とされる理由と始め方まで、順を追って解説します。読み終わる頃には「わが家は今、何をすべきか」が判断できるようになっているはずです。
認知症による口座凍結は「本人保護」のための銀行の運用であり、家族でも原則解除できません。凍結後の選択肢は実質、成年後見制度のみです。対策は本人に判断能力があるうちにしかできないため、「まだ早い」と感じる今こそが最適なタイミングです。
認知症になると銀行口座が凍結されるのはなぜか
まず前提として、「認知症と診断された瞬間に、自動的に口座がロックされる」わけではありません。病院と銀行の間に情報連携はなく、診断書が銀行に送られることもありません。凍結が起きるのは、銀行が何らかのきっかけで「この預金者は判断能力が低下している」と把握したときです。
凍結の法的な理由:預金者本人を守るための措置
預金の引き出しや解約は、法律上は銀行と預金者の間の「契約行為」です。契約行為が有効に成立するには、本人に意思能力(自分の行為の結果を判断できる能力)が必要とされます(民法3条の2)。意思能力を欠く状態で行われた法律行為は無効です。
つまり銀行から見ると、判断能力が低下した方の取引に応じてしまうと、後から「本人の意思に基づかない取引だった」「家族が勝手に引き出して使い込んだ」と紛争になるリスクを抱えることになります。悪意のある親族や第三者による財産の侵害から本人を守る意味でも、銀行は取引を止めざるを得ないのです。
このように口座凍結は「銀行の嫌がらせ」ではなく、預金者本人の財産を守るための保護措置です。だからこそ、家族が「本人のために使うんです」と窓口で説明しても、原則として応じてもらえません。
銀行が認知症を把握する主なきっかけ
実務上、銀行が判断能力の低下を把握する典型的なきっかけは次のとおりです。
- 窓口での会話:本人が手続きに来たものの、氏名や用件を正しく答えられない、同じ質問を繰り返す
- 電話での本人確認:家族が代わりに手続きしようとして、銀行が本人に電話確認した際に会話が成立しない
- 家族の申告:「父が認知症になったので代わりに手続きしたい」と家族が相談してしまう
- 通帳・カードの紛失を繰り返す、暗証番号を何度も間違えるなどの取引記録
- 成年後見の申立てや、後見人からの届出
特に多いのが、家族が良かれと思って窓口で事情を話し、その場で取引を止められるケースです。悪いことをしているわけではないのに、正直に相談した結果、介護費用の引き出し手段を失ってしまう――という事態が現実に起きています。
「死亡による口座凍結」との違いに注意
「口座凍結」で検索すると、亡くなった方の口座の話が混在して出てきますが、この2つは別物です。
- 死亡による凍結:相続財産を確定するための凍結。遺産分割協議書などの相続手続きを経れば解除でき、2019年からは仮払い制度(1金融機関あたり最大150万円)も使える
- 認知症による凍結:本人保護のための凍結。本人が存命な限り相続手続きは使えず、解除の正攻法は成年後見制度のみ
認知症による凍結のほうが「出口が少ない」分、実は深刻です。本記事では認知症による凍結に絞って解説します。
口座が凍結されると、家族は何ができなくなるのか
凍結といっても、口座そのものが消えるわけではありません。年金の振込や公共料金の引き落としなど「入ってくる・自動で出ていく」取引は原則継続します。止まるのは、本人の意思確認が必要な取引です。
- 窓口・ATMでの預金の引き出し(キャッシュカードの停止を含む)
- 定期預金の解約
- 振込、口座振替の新規設定・変更
- 投資信託・株式などの売却、保険の解約
- 自宅など不動産の売却(口座と同じ理屈で、意思能力がないと契約できない)
家族が実際に困る典型的な場面
在宅介護の費用、施設の入居一時金や月額利用料、自宅のリフォーム費用、入院費――こうしたお金は本来、親自身の預金から出すべきものです。ところが口座が凍結されると、親の資産は十分にあるのに使えず、子ども世帯が自分の家計から立て替え続けることになります。
有料老人ホームの入居一時金は数百万円〜数千万円に及ぶこともあり、立て替えの負担は決して小さくありません。また、施設費用を捻出するために親の自宅を売却しようとしても、本人に意思能力がなければ売買契約自体ができず、「実家が売れない」問題に直面します。
なお、認知症高齢者が保有する金融資産は今後さらに拡大していくとみられ、「凍結されて動かせないお金」は社会全体の課題になりつつあります。決して一部の家庭だけの話ではありません。
凍結された口座は解除できるのか
すでに凍結されてしまった(または凍結が目前の)場合、取れる手段は限られます。結論を先に整理します。
- 原則:成年後見制度(法定後見)を利用するしかない
- 例外:医療費・介護費など本人の利益が明らかな支払いに限り、銀行が個別判断で応じる場合がある
- 避けるべき:キャッシュカードで「こっそり」引き出し続けること
正攻法は成年後見制度――ただしデメリットも大きい
家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任してもらえば、後見人が本人に代わって預金を管理できるようになり、凍結は実質的に解消します。ただし、次の点は必ず理解しておく必要があります。
- 申立てから開始まで通常1〜3か月程度かかり、急な支払いには間に合わないことがある
- 後見人には家族が選ばれるとは限らず、司法書士・弁護士などの専門職が選任されるケースが多い
- 専門職後見人には月額2〜6万円程度の報酬が本人の財産から支払われ、原則として本人が亡くなるまで続く(10年続けば数百万円規模)
- 財産の使い方は「本人の維持・保全」が最優先となり、生前贈与や資産の組み替え、相続税対策はほぼできなくなる
- 一度開始すると、家族の判断でやめることはできない
成年後見制度は本人保護のための重要な制度ですが、「口座凍結を解除するためだけ」に使うには負担が重く、後から「こんなはずではなかった」と感じるご家族が多いのも事実です。だからこそ、凍結前の対策が重要になります。
例外:全銀協の考え方に基づく「限定的な引き出し」
2021年2月、全国銀行協会は判断能力が低下した顧客の預金について、成年後見制度の利用を基本としつつも、医療費や介護施設費など「本人の利益に適合することが明らかな場合」に限り、親族等による払い出しに応じる余地があるとする考え方を公表しました。
実際に、請求書や診断書などの提出を条件に、施設や病院への直接振込という形で応じてくれる銀行もあります。ただしこれはあくまで各銀行の個別判断による例外対応であり、①必ず応じてもらえる保証はない、②使途は本人のための支払いに限定される、③生活費のような継続的な引き出しには使いにくい、という限界があります。「最後のセーフティネット」程度に考えておくのが安全です。
キャッシュカードで引き出し続けるのは危険
「銀行に知られる前に、カードで下ろしておけばいい」と考える方は少なくありませんし、実際に暗証番号を知る家族がATMで引き出し続けているケースは多く存在します。しかしこの方法には明確なリスクがあります。
- 銀行がカードの利用を停止した時点で完全に手段を失う(残高が多いほど致命的)
- 使途の記録が残らないため、後日ほかの相続人から「使い込み」を疑われ、相続トラブルの火種になる
- 本人の意思に基づかない引き出しは、法的に見れば正当な権限のない行為で、トラブル時に家族を守ってくれない
仮に一時的にATMで対応する場合でも、領収書と出金記録を必ず残し、並行して正規の対策へ移行することを強くおすすめします。
凍結される前にできる5つの対策【比較表つき】
ここからが本題です。親に判断能力があるうちなら、選択肢は一気に広がります。代表的な5つの対策を、実務での使われ方に沿って解説します。
対策① 家族信託(民事信託)――最も自由度が高い本命
家族信託は、親(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託す契約です。信託契約を結び、預金を信託専用の口座(信託口口座)に移しておけば、親が認知症になった後も、受託者である子どもが契約に定めた目的の範囲で預金を管理し、介護費用や生活費の支払いを続けられます。
- メリット:本人の判断能力が低下しても効力が続く/預金だけでなく自宅などの不動産も対象にできる(施設費用のための売却も可能)/裁判所の関与や第三者への継続報酬が不要/財産の承継先まで決められる
- デメリット:契約時に本人の判断能力が必要(=早めに動く必要がある)/受託者を引き受ける家族が必要/身上監護(施設入所契約など)は対象外/専門家に依頼すると数十万円〜の費用がかかる
対策② 任意後見契約――身上監護までカバーしたい場合
任意後見は、元気なうちに「将来判断能力が低下したら、この人に後見人になってほしい」と公正証書で契約しておく制度です。発効後は、任意後見人が預金管理のほか、介護サービスや施設入所の契約といった身上監護も行えます。
- メリット:後見人を自分で選べる/身上監護を含めて法的にカバーできる
- デメリット:発効には家庭裁判所への申立てが必要で、任意後見監督人(多くは専門職)への報酬が月1〜3万円程度発生し続ける/財産の積極的な活用や処分には向かない
家族信託で財産管理を、任意後見で身上監護を、と役割分担して併用する設計も実務ではよく使われます。詳しい費用の内訳は任意後見契約書の公正証書化にかかる費用の記事で解説しています。
対策③ 代理人カード・予約型代理人サービス――手軽だが限界あり
多くの銀行では、本人の申請により家族用の「代理人カード」を発行できます。また近年は、大手銀行を中心に、本人の判断能力低下後も指定した家族が手続きできる「予約型代理人サービス」を用意する銀行も出てきました。
- メリット:銀行窓口だけで完結し、費用もほぼかからない
- デメリット:代理人カードは本人の判断能力低下後は利用停止となる扱いが一般的/予約型サービスは対応銀行・対応範囲が限られ、不動産や証券には使えない
「つなぎ」や「補完」としては有効ですが、これ単体を認知症対策の柱にするのは危険です。
対策④ 生前贈与――財産そのものを先に渡しておく
凍結される前に、財産の一部を子どもに贈与しておく方法です。年間110万円までの基礎控除内で計画的に贈与すれば、贈与税をかけずに「子どもが自由に使えるお金」を作れます。介護費用の原資を先に移しておく、という発想です。
- メリット:仕組みがシンプルで、相続税対策も兼ねられる
- デメリット:贈与した財産は親のものではなくなる/まとまった額を移すと贈与税の負担が大きい/贈与契約書を毎年きちんと作らないと税務上否認されるリスクがある
対策⑤ 日常生活自立支援事業――少額の生活費管理の公的サポート
社会福祉協議会が実施する公的サービスで、判断能力に不安のある方の日常的な金銭管理(生活費の払い出しなど)を低料金で支援してくれます。ただし対応できるのは日常的な少額のお金に限られ、契約時に一定の判断能力が必要です。定期預金の解約や不動産売却といった大きな財産管理には対応できません。
| 比較項目 | 家族信託 | 任意後見 | 代理人カード等 | 生前贈与 |
|---|---|---|---|---|
| 判断能力低下後も有効 | ○ 効力継続 | ○ 低下後に発効 | △ 停止される例が多い | ○ 渡した分のみ |
| 預金の管理 | ○ | ○ | △ 引出しのみ | ○ 贈与分のみ |
| 不動産の売却 | ○ 信託すれば可 | △ 裁判所等の関与 | × | × 贈与済なら可 |
| 継続コスト | 原則なし | 監督人報酬 月1〜3万円程度 | ほぼなし | なし(贈与税に注意) |
| 初期費用の目安 | 専門家依頼で30万円〜/自分で作成なら実費のみ | 公正証書費用等 数万円〜 | ほぼ無料 | 契約書作成の実費 |
| 裁判所の関与 | なし | あり(発効時) | なし | なし |
| 向いているケース | 預金+自宅をまとめて備えたい | 身上監護まで任せたい | 当面のつなぎ | 相続税対策も兼ねたい |
口座凍結対策の本命「家族信託」の始め方と費用
家族信託を始める5つのステップ
- 家族で話し合う:誰の・どの財産を・誰が管理し・何のために使うのかを決めます。この合意形成がいちばん重要です。家族会議の内容は合意書として残しておくと後のトラブル防止になります。
- 信託契約書を作成する:話し合った内容を契約書に落とし込みます。
- 公正証書にする:法律上の必須要件ではありませんが、信託口口座の開設時に公正証書を求める金融機関が大半のため、実務上はほぼ必須です。
- 信託口口座を開設し、お金を移す:受託者個人の口座と分別管理するための専用口座です。対応金融機関は限られるため、事前確認が必要です。
- 不動産を信託した場合は信託登記を行う:登記は専門性が高いため、司法書士への依頼が現実的です。
費用の目安――専門家に頼む場合と、自分で作る場合
専門家(司法書士・弁護士など)にフルサポートを依頼した場合、コンサルティング報酬の相場は信託財産の1%前後(最低30〜80万円程度)とされ、これに公正証書の作成手数料(数万円〜)、不動産があれば登録免許税(固定資産税評価額の0.3〜0.4%)と司法書士報酬が加わります。財産構成によっては総額50〜100万円を超えることもあります。
一方、契約内容が比較的シンプルなご家庭(例:預金と自宅を長男に託す、など)であれば、契約書の下書きを自分で用意し、公証役場と必要な専門手続きだけ専門家に依頼することで、費用を大きく抑える選択肢もあります。
家族信託契約書を無料でつくる
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軽度認知障害(MCI)と言われたら――まだ間に合う可能性があります
「もう物忘れが始まっているから手遅れでは」と諦める必要はありません。契約に必要な意思能力は「認知症の診断の有無」で機械的に決まるものではなく、契約の内容を理解できるかどうかで個別に判断されます。軽度認知障害(MCI)や初期の認知症でも、契約内容を理解・判断できる状態であれば、家族信託や任意後見の契約が可能なケースはあります。
ただし、後から契約の有効性を争われないよう、公証人の面前での意思確認や、医師の診断書・意思確認書の取得など、慎重な進め方が必要です。この段階では自己判断せず、必ず家族信託に詳しい専門家に相談してください。逆に言えば、症状が進むほど選択肢は確実に狭まります。迷っている時間がいちばんのリスクです。
よくある質問(FAQ)
認知症と診断されたら、すぐに口座は凍結されますか?
いいえ。病院から銀行に診断情報が伝わることはなく、銀行が窓口対応などで判断能力の低下を把握した時点で取引が制限されます。ただし「いつ把握されるか」は予測できないため、診断の有無にかかわらず早めの対策が安全です。
家族がキャッシュカードで引き出すのは違法ですか?
本人のために使っている限り直ちに罪に問われることは通常ありませんが、法的な権限に基づく行為ではなく、銀行がカードを停止すれば手段を失います。また使途の記録がないと、後に他の相続人から使い込みを疑われるリスクがあります。正規の対策への移行をおすすめします。
凍結後に成年後見制度を使わずに解除する方法はありますか?
原則ありません。例外として、医療費・介護費など本人の利益が明らかな支払いに限り、銀行が個別判断で応じる場合がありますが、確実な方法ではありません。本人に契約可能な判断能力が残っていれば、家族信託等の事前対策に切り替えられる可能性があるため、まず専門家に相談してください。
年金の受け取りも止まりますか?
年金の振込自体は継続します。問題は、振り込まれた年金を引き出せなくなることです。年金を生活費・介護費に充てているご家庭ほど、凍結の影響は深刻になります。
家族信託にすれば、親の口座は凍結されなくなるのですか?
正確には、信託した預金を「信託口口座」に移して受託者が管理するため、親名義の口座の凍結の影響を受けなくなる、という仕組みです。信託していない財産は従来どおり凍結リスクが残るため、どの財産を信託に入れるかの設計が重要です。
対策はいつ始めるべきですか?
「本人が契約内容を理解できるうち」が唯一の条件であり、期限は誰にもわかりません。厚生労働省の研究班は、高齢者の認知症人口は2030年に523万人に達すると推計しており、誰にとっても他人事ではありません。親の物忘れが気になり始めたときが、実質的なラストチャンスと考えて動くことをおすすめします。
まとめ:口座凍結は「防げるリスク」。動けるのは今だけ
- 認知症による口座凍結は本人保護のための措置で、家族でも原則解除できない
- 凍結後の正攻法は成年後見制度のみ。継続的な報酬負担や自由度の低さという代償がある
- 凍結前なら、家族信託・任意後見・代理人サービス・生前贈与など選択肢は多い
- 預金と自宅をまとめて守れて継続コストがないのは家族信託。契約には本人の判断能力が必要なため、早く動くほど有利
親のお金の話は切り出しにくいものですが、「凍結されてから後悔した」というご家族を、この分野の専門家は数えきれないほど見てきています。まずは無料ツールで契約書の下書きを作ってみて、それを材料に家族で話し合うところから始めてみてください。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。