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生前の備え

成年後見制度を使いたくない――その感覚は正しいのか?代わりになる制度と、後見を選ぶべきケース

公開日 2026年8月16日 ・ 更新日 2026年8月16日 ・ 10分で読めます

「成年後見制度はやめたほうがいい」「一度始めると地獄」――親の認知症対策を調べ始めると、こうした強い言葉を目にします。そして実際、後見制度の利用をためらう方が検索するのが「成年後見制度 使いたくない」という言葉です。

最初にお伝えしたいのは、この記事は成年後見制度を批判する記事ではないということです。成年後見制度は、判断能力を失った方の財産と権利を守るための重要な公的制度であり、この制度でしか守れない方が確実に存在します。

そのうえで、「使いたくない」と感じる方の不安には、制度の仕組みに根ざした合理的な理由があります。この記事では、①その理由を事実ベースで整理し、②代わりになる制度は何か、③逆に後見制度を選ぶべきなのはどんなケースか、を公平に解説します。

最重要ポイント:代替策(家族信託・任意後見)は、本人に判断能力があるうちにしか契約できません。「使いたくない」と考えられる段階=まだ選択肢がある段階です。判断能力を失った後は、事実上、成年後見制度が唯一の手段になります。

「使いたくない」と言われる5つの理由――事実ベースで整理

① 後見人を家族が選べない(専門職が選ばれることが多い)

法定後見では、後見人を選ぶのは家庭裁判所です。家族を候補者として申し立てても、財産額が大きい場合や親族間に意見の相違がある場合などは、司法書士・弁護士などの専門職が選任される、あるいは家族後見人に専門職の後見監督人が付くのが実務の傾向です。「見ず知らずの専門家が親の通帳を管理する」ことへの抵抗感が、最も多く聞かれる不満です。

② 報酬が本人の死亡まで発生し続ける

専門職後見人の基本報酬は月額2万円程度から、管理財産額に応じて月5〜6万円程度が目安とされます。後見は原則として本人が亡くなるまで続くため、10年で数百万円規模の負担になり得ます。

③ 一度始めるとやめられない

「口座凍結を解除するために後見を申し立てたが、目的を果たしたのでやめたい」は通りません。後見の終了は原則、本人の判断能力の回復か死亡のみです。

④ 財産が「保全」に固定され、柔軟に使えない

後見人の職務は本人の財産を守ることです。生前贈与や相続税対策、資産の組み替え、家族への貸付けなどは原則できなくなり、自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要です。「家族のためにお金を使いたい」という本人の生前の意向があっても、実行は困難になります。

⑤ 毎年の報告義務など家族の事務負担

家族が後見人になれた場合でも、家庭裁判所への定期報告、領収書の管理など、事務負担は軽くありません。

なお、成年後見制度については、より利用しやすい制度への見直しの議論が国レベルで進められています。将来的に運用が変わる可能性はありますが、「今、目の前の親」の対策は現行制度を前提に考える必要があります。

分岐点は「親の判断能力」――選択肢マップ

成年後見を使いたくないときの選択肢マップ。判断能力が十分ある場合は家族信託・任意後見を選べるが、すでに失われている場合は成年後見が事実上の選択肢になる
図:「成年後見を使いたくない」ときの選択肢マップ。分かれ目は親の判断能力の有無だけです。

代替策を検討できるかどうかは、たった一つの条件で決まります。親に契約できる判断能力が残っているかどうかです。

  • 判断能力が十分ある/軽度の低下 → 家族信託・任意後見などの事前対策を契約できる
  • すでに判断能力が失われている → 事前対策は契約できず、成年後見制度が事実上の選択肢になる

つまり「成年後見を使いたくない」というニーズの答えは、使わずに済む状態を、判断能力があるうちに作っておくことに尽きます。

代わりになる3つの制度

① 家族信託――財産管理の代替として最有力

信頼できる家族に財産管理を託す契約です。後見と違い、裁判所の関与や第三者への継続報酬がなく、契約で定めれば自宅の売却も家族の判断で行えます。財産管理の柔軟さでは後見制度を大きく上回ります。詳しくは「認知症で親の銀行口座が凍結される?」の記事で解説しています。

② 任意後見――「後見人を自分で選べる」後見

「後見制度そのもの」が嫌なのではなく「誰が後見人になるかわからないのが嫌」なのであれば、任意後見が答えになります。元気なうちに公正証書で契約し、後見人を自分で指名しておく制度です。ただし発効後は任意後見監督人(多くは専門職)への報酬が発生する点は理解しておく必要があります。介護施設の入所契約などの身上監護をカバーできるのは、信託にはない強みです。

③ 財産管理委任契約・銀行の代理人サービス――軽めの備え

判断能力はあるが体が不自由、という段階では財産管理委任契約が使えます。また一部の銀行には、判断能力低下後も指定家族が手続きできる予約型代理人サービスがあります。ただしいずれも、判断能力喪失後の財産管理を全面的にカバーするものではなく、単体では認知症対策として不十分です。

項目家族信託任意後見法定後見
利用開始の時期契約時から判断能力低下後に発効判断能力低下後に申立て
管理する人を選べるか選べる(家族)選べる(指名した人)裁判所が選任
継続コスト原則なし監督人報酬 月1〜3万円程度専門職報酬 月2〜6万円程度
財産活用の柔軟性高い(契約次第)低い(保全中心)低い(保全中心)
身上監護×
やめられるか契約で設計可発効後は原則不可原則不可
3制度の比較。財産管理の柔軟さは家族信託、身上監護と本人保護は後見が担います。

それでも成年後見制度を選ぶべきケース

公平のために、後見制度が最適解になるケースも明確にしておきます。

  • すでに判断能力が失われている:事前対策は契約できません。口座凍結の解除、施設契約、不動産売却が必要なら、後見の申立てが正攻法です
  • 財産を託せる家族がいない・家族間に対立がある:中立な専門職が管理することが、本人保護に直結します
  • 悪質商法などの被害リスクが高い:後見には本人が結んだ不利益な契約を取り消せる取消権があります。これは家族信託にはない、後見固有の強力な保護機能です
  • 障害のある子の長期的な保護など、公的な監督下の管理が望ましい場合

「使いたくない」という感情だけで後見を排除すると、本人の保護に穴が開くケースがあります。目的(財産の柔軟な管理か、本人の包括的な保護か)で選ぶのが正解です。

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よくある質問(FAQ)

家族信託をしておけば、後見制度は一切不要になりますか?

財産管理の大部分はカバーできますが、身上監護(施設入所契約等)と取消権は信託ではカバーできません。必要に応じて任意後見と併用する設計が実務では使われます。

後見の費用は誰が払うのですか?

後見人・後見監督人の報酬は、本人の財産から支払われます。家族の持ち出しではありませんが、その分、本人の財産(=将来の相続財産)が毎年減っていくことになります。

親がすでに軽い認知症です。もう家族信託は無理ですか?

診断名だけでは決まりません。契約内容を理解できる判断能力が残っていれば契約できる可能性があります。公証人や専門家による慎重な意思確認が前提になるため、早急に家族信託に詳しい専門家へ相談してください。

後見人の解任や交代はできないのですか?

不正行為など正当な事由がある場合の解任申立ては可能ですが、「相性が合わない」「報酬が高い」といった理由では認められないのが実務です。だからこそ、始める前の検討が重要です。

まとめ:「使いたくない」なら、使わずに済む準備を今

  • 「使いたくない」と感じる理由(選べない・報酬・やめられない・硬直的)は制度の仕組みに根ざした事実
  • ただし後見制度でしか守れないケースもある。感情ではなく目的で選ぶ
  • 代替策(家族信託・任意後見)は判断能力があるうちだけの選択肢
  • 迷っている時間が選択肢を減らす。まず現状把握から

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この記事の監修

ゾウゾクグループ

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ご利用にあたって:本記事は一般的な情報提供です。成年後見制度の利用判断・意思能力の評価は、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。制度見直しの議論により今後運用が変わる可能性があります(本文中の情報は2026年8月時点にもとづきます)。