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相続人に障害がある場合の遺産分割|後見・信託・特例の使い分け
相続人の一人に知的障害や精神障害があり、自分で財産の判断ができない——「きょうだいが代わりに判を押して、後で面倒を見ればよい」と考える家族は少なくありません。しかし判断能力が不十分な相続人が加わった協議は無効で、預金の解約も登記も進みません。
後見人が要る場合・要らない場合、後見人がついたときの分割、生活保護への影響、受け皿の作り方を整理します。生前の備えは「障害のある子の「親なきあと」に備える」をどうぞ。
①判断能力が不十分な相続人は遺産分割協議に自分で参加できず、きょうだいが代筆した協議は無効 ②内容を理解して判断できるなら本人が参加できる。できなければ家庭裁判所に成年後見人を申し立て、後見人が代わって協議する。他の相続人が後見人なら利益相反となり、特別代理人か監督人が加わる ③後見人は原則として法定相続分の確保を求め、「きょうだいが管理する」形は認められにくい。取得した財産は生活保護や施設の利用料に影響することがある ④受け皿は後見人が管理する預金、特定贈与信託(6,000万円まで非課税)、家族信託。相続税には障害者控除がある
なぜ後見人が必要になるのか——協議の有効性
遺産分割協議は、相続人全員が内容を理解し、自分の意思で合意して初めて成立します。判断能力が不十分な相続人はこれができないため、本人が署名しても、きょうだいが代わりに署名しても、協議は無効です。
きょうだいが「これからは自分が」と思うのは自然ですが、法律上は本人の財産を本人以外が処分する権限はありません。親が担ってきた財産管理の役割は、親の死とともに「誰も担っていない」状態になる——遺産分割はその空白を埋める最初の場面です。無効な協議は後で覆され、やり直しになります(「遺産分割のやり直しはできる?」)。
後見人が要る場合・要らない場合と、特別代理人
| 本人の状態 | 協議への参加 |
|---|---|
| 障害はあるが、協議の内容を理解して判断できる | 本人が参加し署名押印する。手帳の有無ではなく判断能力で決まる |
| 内容の理解や判断が難しい | 成年後見人(程度により保佐人・補助人)を家庭裁判所に申し立て、後見人が本人に代わって参加する |
| 後見人が他の相続人である | 利益相反。特別代理人の選任を申し立てるか、後見監督人が本人を代理する |
申立てから選任まで2〜4か月程度かかります。相続税の申告期限(10か月)に間に合うよう早めに動く必要があります。後見人は家族とは限らず、財産が多い場合や利益相反がある場合は専門職が選ばれることが多いです(「成年後見の申立て方法」)。
後見人がついたときの分割——法定相続分と生活への影響
後見人は本人の利益を守る立場なので、原則として本人の法定相続分を確保する分け方を求めます。「本人は施設にいるから、きょうだいが多く取得して面倒を見る」という分け方は認められにくいのが実情です。本人が法定相続分どおりに取得すると、次の影響があります。
- 生活保護——受給中なら申告が必要で、金額によっては保護が停止・廃止される(「生活保護受給者が遺産を相続したらどうなる?」)
- 施設・サービスの利用料——利用者負担や食費・居住費の減額は本人の資産で判定されるものがあり、負担が増えることがある
- 管理の継続——取得した財産は後見人が管理し続け、専門職なら報酬(月2万〜3万円程度)が払われ続ける
「法定相続分を渡すのが本人のためになるのか」は、生活状況・支援・将来の費用で変わります。後見人と家庭裁判所に、本人の生活実態と長期の費用見込みを示して協議してください。
受け皿の作り方——後見・特定贈与信託・家族信託と障害者控除
取得した財産を本人の生活のために長く安全に使う受け皿には、次の選択肢があります。
- 後見人が管理する預金——基本の形。まとまった額なら後見制度支援信託・支援預金で家庭裁判所の関与のもとに置かれる
- 特定贈与信託——他の相続人が自分の取得分から、信託銀行を通じて本人のために信託する制度。特別障害者なら6,000万円、それ以外なら3,000万円まで贈与税が非課税で、信託銀行が生活費を定期的に給付する。「きょうだいが多く取得し、一部を本人のために信託する」設計に使える
- 家族信託——きょうだいを受託者、本人を受益者とする信託。柔軟だが、遺産分割で本人の取得分を信託に入れるには後見人の同意が要り、実務では親の生前に組むのが基本
相続税では障害者控除(85歳までの年数×10万円、特別障害者は20万円)があり、引ききれない分は扶養義務者の税額から引けます。本人が財産を取得しなければ使えないため、本人に一定の財産を取得させることが税額の面でも合理的です(「相続税の未成年者控除・障害者控除」)。協議書には本人の取得財産と管理の方法を明記してください。
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遺産分割協議書をつくるよくある質問(FAQ)
療育手帳を持っていますが、本人は自分で判断できます。後見人は必要ですか?
必要ありません。手帳の有無ではなく、協議の内容を理解して判断できるかで決まります。本人が分け方を理解し自分の意思で合意できるなら、本人が署名押印して協議は有効です。金融機関が意思確認を求めることがあるため、本人が同席し内容を説明した記録を残しておくと安心です。判断が難しければ主治医に意見を聞き、必要なら補助や保佐の申立てを検討してください。
後見人をつけると、相続が終わった後も外せませんか?
外せません。成年後見は本人が亡くなるまで続く制度で、「相続のときだけ」という使い方はできません。遺産分割のために選任すると、その後も後見人が財産を管理し、専門職なら報酬が続きます。これが、障害のある子の親が生前に家族信託や遺言で備える理由です。後見の継続を前提に、家族が後見人候補になれるか、支援信託の利用を求められるかを含めて検討してください。
本人の取り分を、きょうだいの私が「預かる」形にできませんか?
できません。本人に代わって財産を管理できるのは家庭裁判所が選任した後見人だけで、きょうだいが私的に預かる形は、法律上は管理権限がない状態です。金融機関も後見人のいない口座の解約や大口の出金には応じません。使途を説明できなければ使い込みを疑われます。関わりたいなら、後見人候補として申し立てるか、信託の受託者になる形を選んでください。
親の遺言で本人の取り分を決めておけば、協議は不要ですか?
遺言で分け方がすべて指定されていれば協議は不要で、後見人を選任しなくても手続きが進むことが多いです。遺言執行者を指定しておけば、執行者が解約や登記を単独で行えます。ただし本人が取得した財産を管理する人は別に必要で、遺言信託・特定贈与信託・後見人といった受け皿の設計は残ります。遺言と受け皿をセットで備えてください。
まとめ
判断能力が不十分な相続人は協議に自分で参加できず、きょうだいの代筆は無効——成年後見人を選任し、後見人が他の相続人なら特別代理人か監督人が加わります。後見人がつくと原則は法定相続分の確保で、取得した財産は生活保護や施設費用に影響し、後見は亡くなるまで続きます。受け皿は後見人の管理・特定贈与信託・家族信託、税金では障害者控除。本人の生活・支援・税金を並べて設計し、協議書に取得財産と管理方法を明記する——これから備える家庭は遺言と信託で協議自体を不要にしてください。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。