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相続発生後

亡くなった親の口座からお金を引き出すとどうなる?単純承認になるリスクと正しい手順

公開日 2026年8月23日 ・ 更新日 2026年8月23日 ・ 10分で読めます

親が亡くなった直後は、銀行がまだ死亡を知らないため、キャッシュカードで普通に引き出せてしまいます。「凍結される前に葬儀代を下ろしておこう」は、実際に多くの家庭で行われています。

しかし、この引き出しには①相続放棄ができなくなる、②使途不明金として相続人間で揉める、③税務調査で指摘されるという3つのリスクが潜んでいます。この記事では「引き出してよいケース・ダメなケース」の分岐と正しい手順を解説します。口座がいつ・どう凍結されるかの仕組みと仮払い制度の詳細は「死亡すると銀行口座はいつ凍結される?」をご覧ください。

結論:判断の分かれ目は「借金の有無」と「使い道」

亡くなった親の口座から引き出したい 借金の有無を調べ終えている? いいえ/不明 引き出さない 放棄の権利を守るのが最優先。 葬儀代などは自分の財布で 立て替え、領収書を保管 はい(債務超過なし) 使い道は故人のための支払い? はい 正規ルートで引き出す 仮払い制度/他の相続人の同意 +記録(領収書・メモ)を残す いいえ(生活費など) 引き出してはいけない 遺産の使い込み=トラブルと 法的責任の火種になります
図1:引き出しの可否フロー。「借金調査が済んでいない段階では触らない」が大原則です。
30秒でわかる結論

借金があるかもしれない段階では、1円も引き出さない。債務がないと確認でき、使い道が葬儀費用や医療費の精算など故人のためのものなら、仮払い制度や相続人全員の同意という正規ルートで、記録を残しながら引き出す──これが安全な順序です。

リスク①:相続放棄ができなくなる(法定単純承認)

民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、相続を承認したものとみなすと定めています(法定単純承認)。親の預金を引き出して自分のために使う行為は、この「処分」の典型例です。

つまり、あとから多額の借金が見つかっても、「もう承認したでしょう」として相続放棄が認められなくなるおそれがあるのです。借金は預金と違って見えにくく、判明が遅れがちです。だからこそ、引き出しの前に負債の調査(信用情報3社への開示請求など)を済ませる順序が重要になります。調査のやり方は「親の借金は相続される?信用情報3社での調べ方」にまとめています。

グレーゾーンに注意

葬儀費用について、社会通念上相当な範囲の支出であれば単純承認にあたらないとした裁判例はありますが、「相当な範囲」の線引きは事案ごとの判断です。相続放棄の可能性が少しでもあるなら、葬儀費用も自分の財布から立て替えて領収書を残すのが最も安全です。

リスク②:使途不明金として兄弟姉妹と揉める

放棄の予定がない場合でも、リスクは残ります。引き出したお金の使い道を説明できないと、他の相続人から「使い込みではないか」と疑われ、使途不明金の争いに発展します。これは遺産分割で最も揉めやすい火種の一つです(兄弟で相続が揉める6大原因)。

法律面でも、2019年施行の民法改正(906条の2)により、相続人が遺産分割前に処分した預貯金は、他の相続人の同意により遺産分割の計算に戻せる扱いが明文化されています。「先に引き出した者勝ち」にはならず、勝手な引き出しは不当利得の返還請求の対象にもなり得ます。

リスク③:税務調査で「直前引き出し」を指摘される

死亡の直前・直後に引き出した現金は、銀行の取引履歴に明確に残ります。相続税の税務調査では過去の入出金が確認されるため、直前に引き出した現金を申告から漏らすと、ほぼ確実に指摘されます

ルールは単純で、死亡日時点で手元にあった現金(引き出したお金の残り)は「現金」として相続財産に計上するだけです。隠す意図がなくても、記録がないと説明に窮します。引き出したら「日付・金額・使い道・残額」をメモし、領収書とセットで保管してください。タンス預金が調査でどう見られるかは「タンス預金と名義預金は相続でバレる?」で解説しています。

正しい手順|引き出す前にやるべき4つのこと

順番やること
1負債の調査──信用情報3社への開示請求・督促状や登記の確認で、債務超過の可能性を消す(調べ方はこちら
2他の相続人への共有──引き出す目的・金額を事前に伝え、できればメッセージ等の記録に残す。無断実行が最大の火種です
3正規ルートの選択──急ぐ支払いは仮払い制度(1金融機関あたり上限150万円・法定相続分の1/3まで)を利用。急がないなら通常の相続手続きで解約・分配(銀行の相続手続きと必要書類
4記録の徹底──領収書・使途メモ・残額を保管し、あとで誰にでも説明できる状態にしておく

なお、この記事は死亡後の話です。存命中の親の預金を家族が引き出す場面(認知症対策)はルールがまったく異なるため、「認知症の親の預金を家族が引き出すには?」をご覧ください。

すでに引き出してしまった場合の対処

① 使い道を再現する──日付・金額・支払先を書き出し、領収書・レシートを集めます。葬儀費用・医療費・施設費の精算など故人のための支出であれば、説明できる限り大きな問題にはなりにくいものです。
② 残額を隔離する──残った現金は使わず、封筒や専用口座に分けて保管し、遺産分割の対象として扱います。
③ 他の相続人へ先に開示する──指摘される前に自分から明細を共有するのが、信頼を守る最善手です。
④ 放棄を検討中なら、直ちに専門家へ──引き出しの内容によって単純承認にあたるかの評価は分かれます。自己判断で「もう無理だ」と諦めず、3か月の期限内に弁護士・司法書士に相談してください(相続放棄の手続き専門家費用の相場)。

よくある質問

暗証番号を知っていれば、家族が引き出すのは違法ではないのですか?

刑事罰の問題になることは家族間では通常ありませんが(親族相盗例)、民事上は別です。他の相続人の持分を害する引き出しは不当利得・不法行為として返還請求の対象になり、単純承認のリスクも生じます。「引き出せる」と「引き出してよい」は別問題です。

葬儀代がすぐ必要です。凍結前に下ろすしかありませんか?

選択肢は3つあります。①自分で立て替えて後日遺産から精算する(最も安全)、②仮払い制度で正規に引き出す、③やむを得ず凍結前に引き出す場合は、他の相続人に事前共有し領収書を完備する。③を選ぶなら葬儀費用の実費に限定してください。

親と同居していて、生活費が親の口座から出ていました。死亡後も使ってよいですか?

死亡の時点で、口座のお金は相続人全員の共有財産に変わります。同居家族でも、遺産分割前に生活費として使うことはできません。当面の生活資金は仮払い制度や遺族年金の手続き(死亡後の年金手続き)で確保してください。

相続人は私一人です。それでも引き出してはいけませんか?

相続人間のトラブルはありませんが、単純承認のリスクと税務上の記録の問題はそのまま残ります。負債調査が終わるまでは触らない、使ったら記録する、という原則は単独相続でも同じです。

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この記事の監修

ゾウゾクグループ

長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。

ご利用にあたって:本記事は一般的な制度解説であり、個別の事情に応じた法的助言を行うものではありません。単純承認にあたるかどうかの判断は事案により異なります。相続放棄を検討している場合は、行動の前に必ず弁護士・司法書士にご相談ください。(本文中の情報は2026年8月時点にもとづきます)