相続放棄の撤回・取消しはできる?受理後に財産が見つかったとき
借金が多いと聞いて放棄したら、後から親名義の預金が見つかった。「放棄をなかったことにできないか」——受理された相続放棄は、原則として撤回できません。
撤回できない理由、取消しが認められる事由と手続き・期限、受理前の取り下げ、放棄前にやるべきことを整理します。放棄の手続きは「相続放棄の手続きを自分でやる方法」をどうぞ。
①受理された放棄の撤回は民法で禁止されている。「財産が見つかった」は理由にならない ②取消しが認められるのは、詐欺・強迫、未成年者の同意なき申述、成年被後見人の単独申述、被保佐人の同意なき申述の4事由。「借金があると誤解した」錯誤は原則認められない ③取消しは家庭裁判所への申述で、期限は追認できる時から6か月・放棄から10年 ④受理前なら取り下げができる。放棄前に財産と債務を調査し、迷うなら限定承認や期間伸長を使う
受理された放棄は撤回できない——その理由
相続放棄は、家庭裁判所に申述して受理されると効力が確定します。民法は「相続の承認・放棄は、3か月の熟慮期間内であっても撤回することができない」と明記しており、「後から財産が見つかった」「思ったより借金が少なかった」という理由で放棄をなかったことにする道はありません。
撤回を認めないのは、放棄によって地位が変わる人がいるからです。子が放棄すれば親や兄弟姉妹が相続人になり、債権者はその人に請求を始めます。自由に撤回できれば、次順位の相続人も債権者も立場が定まらない——放棄は一度きりです。
取消しが認められる4つの事由と、認められない事由
| 事由 | 取消し | 内容 |
|---|---|---|
| 詐欺によって放棄させられた | 可 | 他の相続人に「財産はない」「借金だらけ」と嘘を言われて放棄した場合など。嘘であったことの証拠が必要 |
| 強迫によって放棄させられた | 可 | 脅されて放棄の申述をした場合 |
| 未成年者が法定代理人の同意なく放棄した | 可 | 親権者の同意がない未成年者の申述 |
| 成年被後見人が単独で放棄した/被保佐人が保佐人の同意なく放棄した | 可 | 判断能力の不十分な人を保護するため |
| 財産があることを知らずに放棄した(錯誤) | 原則不可 | 放棄は「財産の有無にかかわらず相続しない」意思表示とされ、財産の存在の誤解は動機の錯誤にとどまるのが一般的 |
| 気が変わった・家族に反対された | 不可 | 撤回にあたる |
問題になるのは「錯誤」です。「借金があると思って放棄したが財産があった」は動機の誤解とされ、取消しは認められにくいのが実情です。ただし他の相続人が財産を隠して放棄を促した事情があれば、詐欺による取消しの余地があります。財産を開示しない相続人への対処は「遺産を開示しない相続人」も参考にしてください。
取消しの手続きと期限——6か月・10年
取消しは放棄を受理した家庭裁判所に申述して行い、詐欺・強迫の事実や未成年・被後見人であったことを示す資料を添えて審査を受けます。認められると放棄は初めからなかったものとなり、財産も債務も引き継ぎます。
- 期限——追認できる時(詐欺に気づいた、強迫が終わった、成年に達した、など)から6か月以内。かつ、放棄の時から10年以内
- 証拠がすべて——「兄に嘘を言われた」だけでは通らず、嘘の内容がわかるメールや手紙、財産の存在を兄が知っていた証拠が要る。審査は厳格
期限は短く証拠も必要なため、気づいた時点で早く弁護士に相談してください。
受理前の取り下げと、後悔しないための放棄前の備え
申述書を提出しても、受理される前なら「取り下げ」ができます。受理までは通常2週間〜1か月程度。この間なら取下書で申述はなかったことになります。後悔しない放棄のために、申述前にやるべきことは3つ。
- 財産と債務を調べ尽くす——預貯金・不動産・保険・借金を照会制度で確認し、「借金だらけ」が本当かを自分で確かめる(「相続財産の調べ方」)
- 迷うなら期間を延ばす——3か月で調べきれなければ、家庭裁判所に「期間伸長」を申し立てる
- 限定承認を比べる——財産の範囲内で借金を返し、余れば受け取れる限定承認は、財産と借金のどちらが多いかわからないときの選択肢(「限定承認とは」)
「借金があるらしい」という伝聞で放棄せず、財産目録を作って全体を見てから決める——後から財産が見つかって悔やむ事態を防ぐ唯一の方法です。
放棄の前に、財産と債務を一枚に——預貯金・不動産・保険・借金を書き出した財産目録があれば、「放棄すべきか」の判断を伝聞ではなく事実で下せます。画面のステップに沿って無料でつくれます。
財産目録をつくるよくある質問(FAQ)
放棄した後に、親名義の預金が500万円見つかりました。本当に受け取れませんか?
原則として受け取れません。その預金は次順位の相続人に、全員が放棄していれば清算人を経て債権者や国庫に渡ります。例外は、他の相続人が預金の存在を知りながら「財産はない」と偽って放棄を促した場合で、詐欺による取消しの余地があります。証拠を集め、気づいてから6か月以内に弁護士へ相談してください。
申述書を出した翌日に財産が見つかりました。まだ間に合いますか?
受理前なら取下書を提出して申述を取り下げられます。すぐに家庭裁判所に連絡してください。受理されると撤回はできません。取り下げた後、改めて財産と債務を調べ、3か月の熟慮期間内に決め直します。調べきれないなら期間伸長の申立てを。
放棄を取り消したら、その間に相続人になった弟はどうなりますか?
取消しが認められると、弟は「あなたの放棄によって相続人になった」地位を失います。弟が遺産分割や債権者への返済を済ませていれば精算が必要です。だからこそ審査は厳格で、証拠が求められます。弟や債権者への影響も含めて弁護士と整理してください。
「放棄しないでほしい」と家族に言われ、放棄を迷っています。後で変えられますか?
一度受理されれば変えられません。期間伸長を申し立てて、財産と債務の調査を終えてから決めてください。相続した後で「やはり放棄」もできません。中間の選択として、財産の範囲内でだけ債務を負う限定承認や、相続分を他の相続人に譲る相続分の譲渡もあります。選択肢を並べて家族と話し合ってください。
まとめ
家庭裁判所に受理された相続放棄は撤回できません——「財産が見つかった」は撤回の理由になりません。取り消せるのは詐欺・強迫・未成年者の単独申述・成年被後見人等の単独申述の4事由だけで、期限は追認できる時から6か月・放棄から10年。「財産があると知らなかった」錯誤は原則認められず、他の相続人が隠していた証拠があるときに詐欺として争う余地があるにとどまります。受理前なら取り下げ可。放棄は一方通行——財産と債務を調べ尽くし、迷うなら期間伸長か限定承認。伝聞ではなく財産目録で決めてください。
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この記事の監修
ゾウゾクグループ
長年にわたり相続分野で積み重ねてきた経験を活かし、zouzoku(ゾウゾク)を運営しています。相続・家族信託・終活に関する書類作成ツールと解説記事を提供しています。